口上

本阿弥光悦 ②

今年は年明け早々、修学旅行の下見を兼ねて、京都に行ってきました。せっかくなので、私は同僚たちよりひと足先乗りし、生徒と一緒には行かない所を見て回りました。鷹が峰の光悦寺もその一つです。正月4日、下鴨や上賀茂は初詣の人で賑わっていましたが、…

2013年

年末恒例の安塚スキー・ツアーから無事戻ってきました。今年は参加者が多く、車2台にぎゅうぎゅう詰め+新幹線での合流でしたが、怪我もなく、特に最終日は天気も素晴らしくて、楽しい3日間でした。市川家にはいつもお世話になりっぱなしです。重正さんの…

井戸茶碗

この週末は根津美術館で「戦国武将が憧れたうつわ〜井戸茶碗」展を観てきました。井戸茶碗というのは16世紀に朝鮮で焼かれた碗型の陶器で、それを桃山時代の茶人や戦国武将が目と手で愛でる美術品として高く評価しました。韓国ではずっと雑器として扱われ…

本阿弥光悦 ① 

史上、国宝に指定されている日本製の茶碗は2つしかありません。ひとつは作者不詳の志野茶碗「卯花墻(うのはながき)」ですが、もうひとつが本阿弥光悦(ほんあみ こうえつ)作の「不二山(ふじさん)」という楽茶碗です。光悦は刀剣鑑定、研ぎを家業とする…

重源上人坐像

日本の肖像彫刻史上最高傑作と言われるこの像を、写真では勿論知っていましたし、是非観たいと思っていました。これまで東大寺は、修学旅行の引率や下見も含めると、少なくとも15回以上訪れているはずなのに、しかし残念ながら俊乗堂開扉時期に当たらず、…

これまでの口上・目次 ②

このブログでは「〜作品」や「お知らせ」以外に、常々私が思っていること等を「口上」というカテゴリーで公開しています。が、文字通り書き散らしていて、どこに何があるかわからない状態なので、ちょっとこの辺でまとめておこうと思います。前にも一度作っ…

変わらないもの ④

アントニオ・ロペスという芸術家がいます。リアリズムにこだわり、15年以上費やして季節の同じ時刻の光だけで風景を描いたり、26年間かけて等身大の男女の彫刻を造ったりと、その仕事ぶりは徹底しています。作品は決して押しつけがましくなく、むしろ控…

変わらないもの ③

形の崩れや歪みに対する許容範囲、デフォルメの感覚も変わらないもののひとつでしょう。写実とはものの形を正確に描写することにとどまらず、リアルと感じられる視点を提案することだと言えます。そのためなら、嘘も方便で、時には常識的なパースペクティブ…

変わらないもの ②

年齢によって肉体的、技術的なコンディションが変わったり、時代と共に使われる材料や道具が進化したとしても、私の絵に目立った違いは見られません。とすると「変わらないもの」は物理的な条件でなく、自分の感覚中にあると考えるべきでしょう。20年前か…

変わらないもの ①

今年の夏はマーラーの交響曲全集を買ってきて、そればかり聴いていました。この時期、蜩やツクツクボウシの声が聞こえてきたら、やはり五番の第4楽章でしょうか。映画『ヴェニスに死す』で使われた、有名なアダージェットです。これでもかというくらい抒情…

小像制作 ③(ジャコメッティ)

約半年、乾燥させて削った小像に漆を塗ります。立体の表面積というのは見た感じより大きく、高さ70cm足らずの像を一通り塗るのに4〜5時間はかかります。その間、全身に漆の飛沫を浴び続けることになります。最近ほとんどかぶれませんが、今はちょっと体調…

遊びについて ②

今やもうなくなってしまいましたが、昔東京には70mmフィルムを上映できるシネラマ映画館がいくつかありました。そんな「テアトル東京」や「新宿プラザ」では、最前列中央に陣取り、湾曲した巨大スクリーンに囲まれるようにして観るのが、私にとって正しい…

遊びについて ①

地球の反対側、Kladnoの山田さんとコメントのやり取りをしていて、思い出しました。そう言えば私は、遊びが「遊び」でなくなってしまう分岐点というものをはっきり意識したことがあります。 もう十年以上前になりますが、台風が近づいた海に一人で入ったこと…

鎌倉

彫刻家大隅秀雄さんの作品が建長寺に展示されていると案内を頂いたので、鎌倉まで出掛けてきました。大きな三門の下、禅宗の寺でなければ二体の力士像があるべき場所で、阿吽の金属作品は風を受けて動き回っていました。大隅さんとはいつも屋内のコンペで顔…

生正味漆

純国産の生漆のことを「生正味漆(きじょうみうるし)」と言います。輸入物に比べると、不純物が少なく、滑らかで、伸びの良さは格段に違います。質の悪い漆は時に腐臭がしますが、国産の生漆は野生の果実のような香りです。 但し質の高い分、値も張ります。…

イデアについて ②

求められる機能や条件の中で、奇をてらうことなく、無駄を省き、木のクセをなだめすかしながら削っていきます。同じ材でも木目によって刀の入れ方は違います。結果として、出来上がるスプーンの形も全く同じものにはなりません。特にヘッドは、首に近い部分…

イデアについて ①

最近、右眼の調子が悪く、彫刻作業がはかどらないので、しばらくの間、木でも削っていようと思います。何年か前に買った、ちょうど良い花梨(カリン)材がいくらかあったので、スプーンを作ることにしました。スプーンというのはもちろん実用品ですが、いざ…

小像制作 ②(ジャコメッティ)

ワイシャツの襟とネクタイをつけ、ズボンの形をつくります。膝や腰の皺が自然になる様、麻布を貼っていきます。 上着をつけ、3週間でほぼ像の形はできました。ここからはじっくりと微調整をしていきます。乾燥するにしたがって多少痩せが出るので、漆を塗る…

小像制作 ①(ジャコメッティ)

3学期の始業日に思い立って、と言うより何かせずにはいられなくなって、新作に取り掛かりました。 ジャコメッティがスイス・スタンパにある母親の家で、机に向かって彫刻しているカラー写真があります。四本脚の丸椅子に背筋をのばして腰かけ、机の上の細長…

見立てについて ②

前回までの『胸像制作』2013-01-13 - 村上力(むらかみ つとむ)ブログ美術館というタイトル通り、この作品は胸から上の肖像にするつもりでした。当初は像高上限70cmというコンクールに出品する予定だったので、やや寸詰まりの像に合わせて、ちょっと高め…

胸像制作 ⑤

昨年5月に途中まで公開した胸像制作ですが、その後ストップしていた訳ではなく、コツコツと造り続けていました。但し、またいつものように気が変わってしまい、実は胸像とは言えないものになりつつあります。 上の状態から、半年近く、モデルとの一進一退の…

2013巳年

明けましておめでとうございます。年賀状用に毎年作っている干支の張子、今年は被り物でなく、腕サイズのニシキヘビにしました。やろうと思えば、実物大で動物を作ることは可能ですが、こんなものも溜まると結構かさばるのです。4年前の牛までは酔っぱらっ…

2012年

年末恒例の安塚スキー合宿から戻ってきました。しばらく運動らしい運動もしていなかったので、火曜日の野球に続くスキーで、全身筋肉痛です。そろそろ年齢なりの節制を心掛けなければいけないのですが、どうも自覚が足りません。遊び始めると悪ガキの本性が…

見立てについて ①

今年の後半は、いろいろなところに文を書いたり、人前で話したりする機会が多くて疲れました。何より、説明や言い訳ばかりに時間を取られて、肝腎の制作ができないのはこたえます。そろそろ右脳中心の生活に戻さないと、心身が委縮したまま固まってしまいそ…

読書について ②

『日本文学史序説』(加藤周一 ちくま学芸文庫)は、上・下巻で1000ページを超す分厚さに気圧されて、なかなか手に取る勇気の出ない本ですが、はたして一昨年末に開くと、引きずり込まれて一気に読み終えてしまいました。とにかく著者の識見の高さや教養…

展覧会について ④

コウモリのような立場にいる今の私にとって、作品に買い手がつくことと、展覧会が成功することは全く別の問題です。今回の個展中、本気かどうかわかりませんが、何人かの方から、小さな作品であれば買いたいという申し出がありました。自分で値段までつけて…

展覧会について ③

個展の最終日にのこのこやって来て、「枯木(みたいな爺)も山の賑わいだな。もっと、その辺にいるピチピチしたネエちゃんでも造ったらどうだ?」なんて好き勝手なことをほざいていった男がいます。前原冬樹(まえはら ふゆき)という彫刻家です。お互い19…

展覧会について ②

公募展で大勢に混じって一点展示するのと、自分の作品だけをいくつかまとめて展示するのとでは、同じ彫刻でも見え方が全然違ってきます。作者も素材もばらばらの作品が一緒に並ぶと、互いに主張するため、各々饒舌にならざるを得ません。コンペは相対評価で…

展覧会について ①

私の場合、特定の美術団体に所属していませんから、毎年決まった展覧会に出品できるわけではありません。作品を発表するためには、屋内展示の公募展を目指すことになりますが、ここ数年、立体作品の募集がめっきり少なくなりました。不景気になると、まずは…

彫刻について ⑤

個展会場にいると、時々「こういうのを何と呼べばいいんですか?人形?彫刻?」と質問を受けます。私自身は、非実用的な立体作品はすべて、人形も含めて、彫刻だと思っていますが、そう考えない人も多いようです。 かなり前になりますが、あるコンクールで私…