下呂温泉

2026年 25cm×33cm 紙、鉛筆、水彩

 下呂の温泉街は飛騨川の両岸に長く続いています。今回、家族と泊まった宿は、下呂駅からは橋を渡った反対側の坂の上でした。いつも通り早く目覚めて、ぶらぶら橋の方に向かうと、対岸の河原に犬を連れた人の姿があります。私も降りられる階段を見つけて、そこに行ってみました。昼間は賑わっていた川沿いの足湯をおじさんがホースで洗っています。丸い大きな石だらけの河原がずっと続く中、小さな埠頭みたいなのが川に突き出ています。その先っちょに腰掛けて、こちらに向かって流れてくる、飛騨川を描いたのがこの絵です。少し先に単線の鉄橋があって、時々高山本線の短い列車がゴトンゴトンと通っていくのが長閑でした。

 同じ川沿いに弓指寛治さんの作品がありました。ひっそりした入口から中に足を踏み入れると、最初は「なんじゃこりゃ」と思います。でも一つひとつの絵と文字を追っていくと、驚くべき展開が待っていました。弓指さんとは顔見知りでしたが、こういう作品は予想外でした。美術か?と言われれば、文学に近いかもしれません。でも間違いなくアートです。実在の人物たちを活写する素晴らしいドキュメントとなっていました。とても絵本にして済ます様な内容ではありません。やはりあの場所で、あの巡り方で体験することが大切なのだと感じました。ある程度、時間に余裕を持って、なるべく人の少ないタイミングで観ることをお薦めします。

 

高山の古い街並み

2026年 33cmx25cm 紙、鉛筆、水彩

 今回の下呂滞在中には、途中三日間家族が来たので、一日だけ高山にも泊まってみました。私は初めて訪れましたが、観光客(特にインバウンド)が多くて驚きました。昼間は人だらけで、悠長にスケッチなんてとても無理なので、朝早く起きて道の端から描きました。そろそろ宿に戻ろうかなと思う頃、ランニングウェア姿のヨーロッパ人(?)の男が「写真をお願いしても良いか?」という様なことを英語で訊いてきたので、「もちろん」と答えました。てっきり私の絵の写真を撮りたいのかと思ったら、スマホを私に渡して仁王立ちポーズをとっています。仕方ないので、この絵の真ん中に大きくグリコのマークみたいなナルシストが収まったスナップを撮ってやりました。

 私の展示会場である南飛騨健康増進センターは、高山駅からも車で40分ぐらいですから、充分通えます。この日はせっかく家族も一緒だったので、まず湯屋小学校の会場に案内することにしました。「みんなの学校」2階には沼田侑香さんの斬新な彫刻作品がありました。天井から床まで張られた沢山のテグスに、カラーのビーズで立体が描かれています。廃校になり、生徒がいなくなってしまった教室で、蜃気楼みたいな子供たちが遊んでいます。永遠に続く休み時間を、笑い声や雰囲気まで残しながら、これだけ的確に表していることに感心しました。この作者は只者じゃありません。60年以上「学校」で過ごした私が言うのだから間違いないでしょう。

 同じ具象立体表現と言っても、可能性の幅は無限です。とかく伝統的な彫刻や絵画と言えば、量感、質感、実在感なんてことが大切と考えられてきましたが、沼田さんの作品はそんな常識を軽々跳び越えてみせます。しかも、デジタルテクノロジーによる表現ではなく、息の詰まる様な手作業というのが素晴らしい。何はともあれ、今回の芸術祭の廃校を舞台にした展示で、最も私の印象に残った作品でした。

飛騨川

2026年 33cmx25cm 紙、鉛筆、水彩

 関東に台風が接近するという日の朝、下呂市も風が強く、飛騨川の川面は荒く波立っていました。雲は形を変えながらどんどん流れていきます。絵を描き終わって橋を渡る時には、身体が飛ばされそうな勢いだったので、展示会場外のマルシェのテントが心配になる程でした。実は、この日は馬瀬から天然鮎の店が出ることになっていて、私はSW前からずっとそれを狙っていたのでした。果たして健康増進センターに着いてみると、嘘の様に風は止み、昼食には念願の塩焼きを堪能することができました。めでたし、めでたし。

 さて、前回の続きになりますが、「ここに在る森」の中で、実は巨大ピカソは囮(おとり)なのかもしれません。服も虜囚そのものですし。大きくて目立つので、観覧者がそちらに気を取られているうちに、いつの間にか背後の像たちの視線に捉えられてしまう。まあ、言ってみれば、飛騨川友釣り作戦ですね。

四美(しみ)の森

2026年 25cm×33cm 紙、鉛筆、水彩

 五連休中は毎日、アートディスカバリーの展示会場で過ごしました。下呂では心配された台風の影響もなく、芸術祭はなかなか賑わっています。私もこのSW滞在中に、四つのエリアの展示を全て観て廻りました。ガイドブックやホームページから予想していたのとは、随分違った印象の作品がたくさんありました。やはり何でも思い込みだけでわかった気にならず、実物を見ることが大事です。私には到底考えつかない様なとんでもない、でも間違いなく渾身の作品がいくつもあり、大いに刺激を受けました。

 私の展示会場・健康学習センターから裏の森に足を踏み入れると、晴れているのに木の上から水が降り注いでいる場所があります。遠藤利克さんの作品です。岩の間の流れから汲み上げられた水が6箇所から落下して、また小川に戻っていきます。パコーンという音こそ聞こえませんが、私には本物の自然を使った大掛かりな獅子脅しの様に思えました。地面の石で砕けた飛沫は辺りに虹を漂わせます。散策路からたった数歩入っただけなのに、深い森に迷い込んだ様な絶好の場所です。地面や岩についた明るい緑の苔が綺麗です。ただ、さすがに鑑賞者がいる時間にここでスケッチする訳にはいかないので、次の朝早く公開前に行って描いてきました。ちょうど絵が出来上がった時、バタバタバタと周囲から一斉に水が落ちてきました。9時30分、アートディスカバリーのスタート時間でした。

 さて、私の展示「ここに在る森」にはいくつか企みが仕込んであります。作者本人が会場にいる時、そっと教えると皆喜んで(?)くれました。その一つが「観る・見られる」関係の揺さぶりです。観覧者は一つひとつの作品と対峙しながら、常に一方的に自分が観ていると思いこんでいます。ところが会場内のある一点に立って(或いは座って)、振り向くと全ての作品の視線が集まる仕掛けになっています。写真中央右、立方体の椅子がそのポイントです。気づいた人は一様にドキッとした反応をします。小学生の小さな女の子は「職員室で全部の先生から怒られてるかと思った。」と上手い表現をしていました。観ているつもりが自分の方こそ周り中から見られていた、という経験をしないまま、会場から出てしまった方々。ちょっと勿体ないですよ。是非もう一度入って確かめてください。なんてね。

「ここに在る森」The Forest 出品作品リスト

 昨日の朝、下呂に着きました。天気がちょっと心配でしたが、きれいに晴れて気温もかなり上がりました。展示室にエアコンがあって本当に良かった!連休中も(関東は台風が心配ですが)こちらは暑くなりそうなので、私の展示スペースが格好のオアシスになるかもしれません。

 さすがに昨日は平日だったので、お客さんはちらほらでしたが、何人かとはお話しすることができました。私にとっても貴重な自由時間だったので、展示室から出て、この周りに設置された作品をじっくり観てまわりました。森の中のものも室内のものも思っていたよりずっと見応えがあり、健康増進センターエリア全体が相乗効果でそれぞれの個性を高め合っている印象です。土日祝日に「楽市楽座」マルシェが出て、さらにお祭りムードが盛り上がれば、なかなか面白い芸術祭になりそうです。

 さて。展示した私のインスタレーションのタイトルは「ここに在る森」ですが、個々の作品は独立しています。つくった時期も二十年以上前から現在までバラバラです。一応言っておくと、今回初めて公開する新作は、#2、6、7、23、24、26、27、28になります。森の中に古木があれば若い木もある様に、皆 勝手に立ったり座ったり寝そべったりしています。そこに特別な物語や論理を読み取る必要はありません。偶々「ここに在る森」というだけで充分です。ただ、それぞれの作品として興味を持ってくださる方もいらっしゃるので、会場に掲示した出展作品リストを、ここにそのまま載せておきます。表記は下の通りです。作品説明のURL(会場ではQRコード)から、このブログのそれぞれのページに案内される仕組みです。ちょっと横着していますがご勘弁を。

タイトル(和・英)

サイズ(単位 cm、高 H×幅 W×奥行 D)、制作年

素材(和・英)

作品説明(URL)

 

1 ゾンビ・ピカソ Zombie Picasso

360×450×130、2022

麻布、樹脂、鉄、発泡スチロール、紙、アクリル絵具、他

Burlap,Emulsion,Iron,Styrofoam,Paper,Acryllic Paint,etc.

http://d.hatena.ne.jp/murakami₋tsutomu/20221231

 

2 熊谷守一 Morikazu Kumagai

110×65×90、2026

麻布、樹脂、漆、木、他

Burlap,Emulsion,Urushi(Japanese Lacquer),Wood,etc.

http://d.hatena.ne.jp/murakami₋tsutomu/20260725

 

3 平櫛田中 Denchu Hiragushi

160×60×60、2010

麻布、樹脂、漆、木、他

Burlap,Emulsion,Urushi(Japanese Lacquer),Wood,etc.

http://d.hatena.ne.jp/murakami₋tsutomu/20110122

 

4 Claude Lévi-Strauss

126×67×90、2024

麻布、樹脂、漆、木、椅子、他

Burlap,Emulsion,Urushi(Japanese Lacquer),Wood,Chair,etc.

http://d.hatena.ne.jp/murakami₋tsutomu/20240305

 

5 ムンク Munch

185×60×45、2022

麻布、樹脂、漆、木、他

Burlap,Emulsion,Urushi(Japanese Lacquer),Wood,etc.

http://d.hatena.ne.jp/murakami₋tsutomu/20221224

6 M 氏 Mr.M

88×80×90、2025

麻布、樹脂、漆、木、他

Burlap,Emulsion,Urushi(Japanese Lacquer),Wood,etc.

http://d.hatena.ne.jp/murakami₋tsutomu/20260711

 

7 M 夫人 Mrs.M

93×60×60、2025

麻布、樹脂、漆、木、他

Burlap,Emulsion,Urushi(Japanese Lacquer),Wood,etc.

http://d.hatena.ne.jp/murakami₋tsutomu/20260704

 

8 マタイ(伯剌西爾)Ⅱ MATAI/Mattei(Brazil)Ⅱ

33×78×78、2021

麻布、樹脂、漆、他

Burlap,Emulsion,Urushi(Japanese Lacquer),etc.

http://d.hatena.ne.jp/murakami₋tsutomu/20210703

 

9 Picasso

162×65×60、2019

麻布、樹脂、漆、木、他

Burlap,Emulsion,Urushi(Japanese Lacquer),Wood,etc.

http://d.hatena.ne.jp/murakami₋tsutomu/20190914

 

10 N 嬢 N

162×60×40、2022

麻布、樹脂、漆、木、他

Burlap,Emulsion,Urushi(Japanese Lacquer),Wood,etc.

http://d.hatena.ne.jp/murakami₋tsutomu/20220528

 

11 K 次郎 K-jiro

172×60×35、2023

麻布、樹脂、漆、木、他

Burlap,Emulsion,Urushi(Japanese Lacquer),Wood,etc.

http://d.hatena.ne.jp/murakami₋tsutomu/20240330

12 G・オキーフ G. O’keeffe

170×75×45、2004

麻布、樹脂、漆、木、他

Burlap,Emulsion,Urushi(Japanese Lacquer),Wood,etc.

http://d.hatena.ne.jp/murakami₋tsutomu/20110222

 

13 Plugged Clapton

148×90×50、2006

麻布、樹脂、漆、木、他

Burlap,Emulsion,Urushi(Japanese Lacquer),Wood,etc.

http://d.hatena.ne.jp/murakami₋tsutomu/20110208

 

14 P・W(木彫家) (Woodsculptor)

175×65×45、2017/2021

麻布、樹脂、漆、木、他

Burlap,Emulsion,Urushi(Japanese Lacquer),Wood,etc.

http://d.hatena.ne.jp/murakami₋tsutomu/20180303

 

15 P・W(人形師) (Doll maker)

180×65×45、2018/2021

麻布、樹脂、漆、木、他

Burlap,Emulsion,Urushi(Japanese Lacquer),Wood,etc.

http://d.hatena.ne.jp/murakami₋tsutomu/20180224

 

16 P・W(ミノタウロス) (Minotaur)

167×65×65、2021

麻布、樹脂、漆、木、他

Burlap,Emulsion,Urushi(Japanese Lacquer),Wood,etc.

http://d.hatena.ne.jp/murakami₋tsutomu/20210925

 

17 イサム ノグチ Isamu Noguchi

155×50×34、2010

麻布、樹脂、漆、アクリル絵具、他

Burlap,Emulsion,Urushi(Japanese Lacquer),Acryllic Paint,etc.

http://d.hatena.ne.jp/murakami₋tsutomu/20110122

18 Dylan

154×80×80、2013

麻布、樹脂、漆、木、鉄、アクリル塗料、サングラス、他

Burlap,Emulsion,Urushi(Japanese Lacquer),Wood,Iron,Acryllic Paint,Sunglasses,etc.

http://d.hatena.ne.jp/murakami₋tsutomu/20130126

 

19 小林秀雄 Hideo Kobayashi

88×50×35、2011

麻布、樹脂、漆

Burlap,Emulsion,Urushi(Japanese Lacquer)

http://d.hatena.ne.jp/murakami₋tsutomu/20111106

 

20 ロダン Rodin

53×53×33、2011

麻布、樹脂、漆

Burlap,Emulsion,Urushi(Japanese Lacquer)

http://d.hatena.ne.jp/murakami₋tsutomu/20121001

 

21 臨月 Last month

170×50×45、2001/2022

麻布、樹脂、漆、木、他

Burlap,Emulsion,Urushi(Japanese Lacquer),Wood,etc.

http://d.hatena.ne.jp/murakami₋tsutomu/20110708

 

22 国語 My Favorite Japanese

170×160×60、2018

麻布、樹脂、漆、木、紙、他

Burlap,Emulsion,Urushi(Japanese Lacquer),Wood,Paper,etc.

http://d.hatena.ne.jp/murakami₋tsutomu/20180922

 

23 三毛猫 Calico cat

45×30×70、2025

麻布、樹脂、漆

Burlap,Emulsion,Urushi(Japanese Lacquer)

http://d.hatena.ne.jp/murakami₋tsutomu/20260606

24 斑猫 Tabby cat

65×60×30、2025

麻布、樹脂、漆、木、竹、他

Burlap,Emulsion,Urushi(Japanese Lacquer),Wood,Bamboo,etc.

http://d.hatena.ne.jp/murakami₋tsutomu/20260428

 

25 ジャーナリズムの不在 Absence of Journalism

40×55×75、2025

麻布、樹脂、漆、アルミ、有刺鉄線、石、他

Burlap,Emulsion,Urushi(Japanese Lacquer),Aluminum,Barbed wire,Stone,etc.

http://d.hatena.ne.jp/murakami₋tsutomu/20251213

 

26 枯れる海 Dried-up Ocean

53×80×55、2026

麻布、樹脂、漆、アルミ、流木、他

Burlap,Emulsion,Urushi(Japanese Lacquer), Aluminum,Driftwood,etc.

http://d.hatena.ne.jp/murakami₋tsutomu/20260620

 

27 桜にカラス Crow on Cherry tree

33×170×55、2025

麻布、樹脂、漆、アルミ、鉄、桜の枝、他

Burlap,Emulsion,Urushi(Japanese Lacquer),Aluminum,Iron,Cherry branch,etc.

http://d.hatena.ne.jp/murakami₋tsutomu/20260516

 

28 曼殊沙華 Red spider lily

70×130×40、2025

竹、鉄、アルミ、和紙、アクリル絵具、神代杉、他

Bamboo,Iron,Aluminum,Japanese Paper,Acryllic Paint,Old Cedar wood,etc.

http://d.hatena.ne.jp/murakami₋tsutomu/20250802