変わらないもの ②

 年齢によって肉体的、技術的なコンディションが変わったり、時代と共に使われる材料や道具が進化したとしても、私の絵に目立った違いは見られません。とすると「変わらないもの」は物理的な条件でなく、自分の感覚中にあると考えるべきでしょう。20年前からずっと私の作品に共通する特徴がいくつかあります。描けば描く程、色、形、構図について私がどこまで追求、或いは許容するのかという匙加減もはっきりしてきました。
 指紋や声紋のように時間が経っても変わらないものの一つは色彩感覚でしょうか。色については、受容と表現の仕方が各人各様で、ひとりひとりの配色パターンが区別できます。画面に何が描いてあるのか分からなくても、作者は明らかということだってあります。机の上や部屋を散らかすのと同じように、色のばら撒き方にもそれぞれのこだわりが出るようです。
 言うまでもなく、一つの色はそれだけでは何の意味も主張も持ち得ません。絶対的な色なんてありません。色が目立つとか、渋いというのはあくまでも相対的な問題で、隣に置かれる色によって、同じ色の印象は如何様にも変わります。周りの色との関係性の中で、初めて色は色として認識され、鮮やかとか地味とか強いとか優しいといった感覚を伴うようになります。つまり色彩感覚とは、単色の好みとかこだわり等には関係なく、むしろ隣に持ってくる色のセンスとそのバラエティのことだと思います。ファッションと同じで、要はコーディネイトの感覚です。
 限られた絵具の組み合わせだけで豊かに表現するのが、絵を描くことだとすると、そういう色の生かし方には必ず作者特有のクセがあります。恐らくそれは、変えたくても変えられないその人の個性として、全ての作品に表れています。