見立てについて ②


 前回までの『胸像制作』2013-01-13 - 村上力(むらかみ つとむ)ブログ美術館というタイトル通り、この作品は胸から上の肖像にするつもりでした。当初は像高上限70cmというコンクールに出品する予定だったので、やや寸詰まりの像に合わせて、ちょっと高めの作品台の制作も考えていました。折しも、我家で洗濯機横の棚を新調したので、それまで使っていた高さ90cmのスチールラックが不要になりました。それを外枠にして、堆積した石の洞窟、或いはガウディの建物のようなイメージの台にしてみようと、実際に作り始めたところでした。円錐形の発泡スチロールを芯に使って数本の垂れ下がった鍾乳石を表し、底にも麻布で起伏をつけた中空の台ができつつありました。
 ところが開催予定だったコンクールが中止になってしまったのです。慌てて完成する必要はなくなり、あらためて眺め直してみると、どうも満足する作品になりそうもない気がしてきました。同時期に造っていた「藤本イサムさん」2012-12-08 - 村上力(むらかみ つとむ)ブログ美術館の方は、少しづつ生命を持ち始めていました。ふと振り向いたとき、本当に人がいると思えて、(作者のくせにバカみたいですが)ぎょっとするなんてこともありました。しかし、こちらの胸像は台との関係もちぐはぐで、ちっとも迫ってこないのです。ちょうど夏の個展をやっていた頃だったので、「やはり全身像と比べると胸像は見劣りするなあ」と再認識した時期でもありました。そんな或る日、何かの拍子で、ごてごてと無意味な凹凸をつけられた四本脚の台が、人の腰かけた椅子に見えたのです。果たして胸像を乗せてみると、台面から下がった氷柱のような3本の円錐がちょうど人間の腹から腰を表しているようでした。これしかない!と思い、すぐに方向転換しました。

 4本のフレームから余計な飾りを削り取ると椅子の脚になり、そこに座面と下半身、床面を取り付けました。あくまでも作品台として作り始めたので、もう少し抽象的に仕上げても良かったのですが、進めていくうちに結局、胸像でなくセパレートの全身像になってしまいました。今は胸像(上半身)と台(下半身)の間に、取り敢えずその辺にあった粘土板を挟んでありますが、完成作ではもっと大きな自然材の後半分を黒漆塗りにして入れるつもりです。前半分の無垢板をカウンターテーブルに見立てる趣向なのですが、残念ながら、ちょうどいい材はまだ見つかりません。