変わらないもの ①

 今年の夏はマーラー交響曲全集を買ってきて、そればかり聴いていました。この時期、蜩やツクツクボウシの声が聞こえてきたら、やはり五番の第4楽章でしょうか。映画『ヴェニスに死す』で使われた、有名なアダージェットです。これでもかというくらい抒情的で、まさに映画音楽のような曲ですが、いよいよバカンスが残り少なくなってくると沁みてきます。どうもマーラーの曲は人を、あの映画の主人公のように、センチで回顧的な老人にしてしまうようです。
 古いスケッチブックを出してきました。大学時代は大きなキャンバスに油絵具を塗りたくるばかりで、スケッチブックなんて使った記憶がありません。教員になり、少しは仕事に慣れた頃…二十代の後半から時々水彩画を描くようになりました。いずれ美術で身を立てたいが、今すぐ大作に取り組む余裕はないし、かと言って何もしないわけにはいかない。とりあえず小さな絵を描きながら、いつかきっと…という青臭い自意識が、ページの合間に見え隠れしています。
 しかし、意外に絵は変わっていません。最近、ある人に私の絵は見分けがつき易いと言われて、そんなものかなと思いましたが、確かに20年以上前のスケッチも明らかに私の絵です。進歩がないのか、気持ちが若いのかわかりませんが、この「五智国分寺」など、最近の「極楽寺http://d.hatena.ne.jp/murakami_tsutomu/20130728や「三月堂」http://d.hatena.ne.jp/murakami_tsutomu/20130814と並んでいても、別に違和感はありません。歳をとって、経験はともかく、視力や体力、気力は衰えているにも拘らず、作品には大して影響していないようです。時間が経っても変わらないもの…、美術作品の個性をつくるものとは一体何なのか、この辺で少し考えてみようと思います。