変わらないもの ④

 アントニオ・ロペスという芸術家がいます。リアリズムにこだわり、15年以上費やして季節の同じ時刻の光だけで風景を描いたり、26年間かけて等身大の男女の彫刻を造ったりと、その仕事ぶりは徹底しています。作品は決して押しつけがましくなく、むしろ控えめなのですが、なかなか魅力的で説得力を持っています。彼が描くと、普通に考えればモチーフになりそうもない、アパートの白い壁やバスルームまでもが充分鑑賞に堪える絵になってしまうのです。
http://d.hatena/ne/jp/murakami_tsutomu/20130907
 アントニオ・ロペスが見えるままの対象を尊重し、それを謙虚に写し取ろうとする姿勢には共感を覚えますが、ただ私に同じことはできません。それだけ長期間に亘って集中力を持続するのはとても無理です。人はそれぞれ、生まれながらに時間の感覚が違います。筋肉に瞬発筋と持久筋があるように、仕事の進め方も短期集中で一気にやる人と、じっくり時間をかけて作り上げていく人がいます。私は明らかに前者です。一旦始めたら、段取り良く形にしていかないと、そもそも何をしようとしていたのかがわからなくなってしまいます。

 短時間で仕上げられた作品が独特のスピード感や勢いを表すこともあれば、粗ばかり目立つ雑なものに見られることもあります。逆にじっくり仕上げられて深い味わいのある作品になる場合もあれば、退屈な土産物みたいになってしまうこともあります。これはもう、どちらがいいとか悪いとかではなく、作者の業としか言いようがありません。せっかちで生き急ぐ傾向は、変わらない私の体質として、ずっと付き合っていくしかないようです。