生正味漆


 純国産の生漆のことを「生正味漆(きじょうみうるし)」と言います。輸入物に比べると、不純物が少なく、滑らかで、伸びの良さは格段に違います。質の悪い漆は時に腐臭がしますが、国産の生漆は野生の果実のような香りです。
 但し質の高い分、値も張ります。千年以上の間、生漆の相場は変わっておらず、同重量の純銀並の価格を維持しています。天平時代に隆盛を極めた、「阿修羅像」のような、乾漆による造仏が、その後急速に廃れていくのは、あまりにも漆が高価であったためと思われます。

 漆器の産地などでも、下塗りから上塗りまで国産の上質な漆を使う所は稀でしょう。下塗りには安価な輸入品を使い、仕上げのみに生正味漆を塗るというのが一般的です。そうしなければ利益が出ませんし、適正な価格でモノを売るためには仕方ないと思います。木のスプーン一本が2万円では誰も買う気になりません。でも、私の場合、利潤を上げる必要はないので、口に入れるモノには敢えて最高品質の漆にこだわってみました。今、二度目の塗りを終えて乾かしているところです。