掌(阿修羅考)①


制作中 高さ(頭頂まで)48cm
 修学旅行の事前学習用に「阿修羅」をつくることにしました。脱活乾漆像の構造を理解してもらうため、中空の上半身を実物の2/3サイズで成形してみました。但し、材の麻布こそ同じですが、この像に漆は使っていません。漆の乾くのを待っていたら、時間がかかり過ぎますし、万が一生徒がカブレたら大変です。わざわざつくってみせる目的は、何より持ってみてその軽さを体感してもらうことですから、さわれない像では意味がありません。授業の日、まだ制作途中でしたが、この像は生徒全員の手から手へと廻りました。「阿修羅」が天平時代から現在まで、度重なる火災をくぐり抜けて来られた理由を、それぞれの掌は理解してくれただろうと思います。

 ご覧の通り、中は空洞です。興福寺の阿修羅像は立たせるために木芯が入っていますが、それでも重さは15kg程しかありません。軽く、丈夫で、造仏技術として理想的と思える乾漆造なのに、ではなぜ、天平時代以降つくられなくなってしまったのでしょうか?ネックは漆の値段でした。私の模像では、ここまでの制作で、だいたい4kg程の接着剤を使っていますが、国産の漆でそれをやるとなると、このサイズでざっと6〜70万円の材料費がかかってしまいます。恐らく、実物の阿修羅像では、現在の貨幣価値にして、300万円分以上の漆が使われていたと思われます。結局、平安時代になると、乾漆は木彫に取って代わられていくのです。