迦楼羅

2022年 36cm×26cm 一版多色刷木版画

 彫刻刀の試し彫りの傷がついたシナベニヤ板で、生徒に見せる参考作品を作ることにしました。転写したりするのは面倒だったので、下描きせず、興福寺の写真資料を見ながら、直に板を刻んで刷りました。元の図版とは左右逆ですが、そんなに違和感はありません。

 この迦楼羅(カルラ)像は、阿修羅像と共に八部衆の一つとして、興福寺西金堂にありました。奈良時代に建てられた西金堂は焼失、再建を繰り返しましたが、江戸時代以降は失われたままになっており、天平時代の貴重な乾漆像群は現在、全て国宝館に展示されています。

 これらの八部衆や釈迦十大弟子像は、元々西金堂で本尊を取り巻くように配置されていたことがわかっています。空海が東寺の講堂に立体曼荼羅をつくるよりもずっと前に、ジオラマの様に仏像を並べることが行われていた訳です。確かに新薬師寺の十二神将像などを見ても、天平時代の空間構成の独創性は際立っています。そして、展示方法の変化に伴い、360度全てから観られることを想定した、仏像自体の立体感も求められる様になったはずです。正面鑑賞性だけでなく、側面や背面も同じように重視される「彫刻的な」造仏法が確立されたのが正に天平時代でした。迦楼羅像の横顔も、その例に漏れず、相当「彫刻的」クオリティが高いと思うのですが、いかがでしょう?