本門寺五重塔

2024年 32cm×25cm 紙、鉛筆、水彩

 本阿弥光悦揮毫の扁額(レプリカですが)を観に、三十何年かぶりに池上本門寺に行ってきました。私が最初に勤めた学校は、同じ大田区内にあり、毎年10月には御会式(おえしき)パトロールというのをやっていました。御会式はここ池上の地で亡くなった日蓮の命日を追悼する祭りです。毎年数十万人が押し寄せる盛大な祭礼で、地域の中学生同士の小競り合い等も度々あったので、夜にはそれぞれの学校の教員がチームを組んで見回るのが恒例でした。それ以来の、そして昼間の本門寺はだいぶ印象が違いました。

 広々とした境内は明るく、まるで近所の年配の人たちが集う健全な公園です。私の記憶違いかもしれませんが、昔は五重塔ももっと暗い色だった様な…。それもそのはず、御会式パトロール当時の私は、夜の本門寺しか知りませんでした。人混みで溢れた境内には裸電球の屋台が立ち並び、テントの居酒屋みたいな一角を本部にして、先輩教員たちとガブガブ飲みながら、有事に備えたものでした。もちろん勤務時間じゃありませんから、どうこう言われる筋合いはありませんが、でもやはり令和の今では考えられない、懐かしの不適切時代の思い出です。祭のクライマックス、何人か生徒たちも参加していた「万灯練り行列」は迫力満点でした。私にとって本門寺と言えば夜のイメージになってしまう訳です。

 さて、こんな青空の下、本門寺に来てみると、周囲が皆 健康的過ぎて場違いな気がします。初老のグループが派手なトレーニングウェアでウォーキングしていますし、近くの幼稚園か保育園の子供たちは先生に連れられて大騒ぎの散歩中でした。私もぶらぶらしながら描く場所を探しましたが、やはり五重塔が一番絵になりそうです。明るい墓地の中に、静かで、塔を見上げるのにちょうど良い石段があったので、そこに陣取ることにしました。暦の上ではまだ冬のはずなのに、外のスケッチが全然苦にならない長閑な午後でした。

 それにしても、この絵を描いた節分前は温かい日が多く、まさか桜の開花がここまで遅れるとは思いませんでした。最近のパターンでは卒業式に花盛り、入学式は葉桜が定番でしたが、今年は久しぶりに桜の下で新入生の記念撮影という光景が見られそうです。