盃、ぐい呑


2014年 左・高3.8cmx径8.5cm、中・5.3cmx7.4cm、右・4.5cmx6cm
 古い写真で見た小林秀雄旧蔵の井戸盃が何ともいい形をしていたので、写しを作ってみたのが左の杯です。焼き上がると実物よりちょっと小さくなりましたが、形はまあまあ上手くいきました。まだ真新しく目立ちませんが、細かい貫入がびっしり入っているので、使い込んで古色がつくといい味が出てくるかもしれません。

 中は藁灰の割合を多くして、斑唐津(まだらからつ)を狙ったぐい呑です。外側に半透明の緑斑が少し出ました。釉薬にする灰の種類によって焼き物の色や風合いは全く違ってきます。樹種が違えば燃え残る成分も異なる様で、陶芸家は作品毎に自作の灰釉(かいゆう)を使い分けています。
 さらに、焼き方によっても仕上がりは変わります。酸素が充分な状態で焼くことを酸化焼成と言います。電気窯を使えば、火は出ませんから酸素は失われることなく、当然この焼き方になります。それに対して、薪窯ではどうしても一部で不完全燃焼が起こります。こうして酸欠状態で焼くことを還元焼成と言います。同じ土、同じ釉薬を使っても、酸化と還元では全く焼き上がりが違ってきます。今回作った右の小さなぐい呑は、以前「唐津ぐい呑三様」http://d.hatena.ne.jp/murakami_tsutomu/20140906で紹介したものと同じ唐津の土と薬を酸化焼成しました。(下の写真では左が今回の酸化、右が前回の還元)

(左・酸化、右・還元)
 前回、還元焼成したものとは、これだけ仕上がりが違ってきます。好みは人それぞれでしょうが、完璧な計画が必ずしも結果に繋がらず、偶然や環境に大いに左右されてしまうところが陶芸の難しさであり、また楽しみでもあります。
 さて、昨晩はこれらのぐい呑が役に立ちました。作品搬入のため久しぶりに朝来を訪れ、彫刻家の藤本イサムさんを無理やり呼び出して一杯やったのですが、たまたま入った居酒屋が大当たりでした。愉快な亭主の好意で看板過ぎまで長居させてもらい、おまけに「木曽路」という店と同じ名前の酒まで一本頂いて帰ってきました。ぐい呑を3つ替わりに置いてきました。