PW〈ミノタウロス〉

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2021年 167cm×65cm×65cm 麻布、樹脂、漆、木、他

 第9回あさごアートコンペティション2021展のパンフレット用に書いた作品紹介文をそのまま載せます。

PWとはPrisoners of War、大岡昇平が描いた戦争俘虜のことです。戦後76年が過ぎましたが、私たち日本人の根性は依然としてPWのままなのではないか?と感じます。私の良き理解者である友人に俘虜の服を着せ、さらに虜囚としてのミノタウロスを重ねて、それを表現しました。因みに友人は丑年の牡牛座生まれです。

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 作品の背景にストーリーやコンセプトを仄めかすことはしたくありませんが、作品整理の為にタイトルは必要ですし、そのために暫定的なテーマを設定するぐらいは仕方ないと割り切っています。日本人の身内や友人をつくる時、私はよくこの「PW」という題を使い回しています。別に政治的な意図などありません。ただ、私達の現在を微分した時に、いつまでも消えない俘虜根性という関数が紛れ込んでいる以上、それも含めて表現するのが私のスタンスです。

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 日本はずっと戦後を引きずりながら、ここまで来ました。恐らくこのままでは、本当の意味で独立国家となることは難しそうです。でも、「だからどうなんだ?」と開き直りながら、日々暮らしているのが今の日本人かもしれません。今年還暦を迎える我々は、少年期からずっとアメリカ文化にどっぷり浸かったまま、政治的に何もなし得なかったばかりか、どうしようもない政府を容認してしまった罪深い世代でもあります。永遠にPWと刻印されたシャツを着ながら、しかしそれなりに愉快に過ごしている、この世代の微かな敗北感を語ると、どうしても自嘲的(心のない反省的)表現にならざるを得ません。囚われていることについて、格別 不満や不幸を感じている訳でもないので、牛の仮面を持たせてミノタウロスと茶化してみたりして。でも、この一種の諦観がいずれ停電時にロウソクくらいの役に立つかもしれないと思い、全否定まではしないでおきます。