マタイ(伯剌西爾)

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2019年 高60cmx幅60cmx奥行70cm 麻布、樹脂、漆、木、他

 バブルの頃、色々な企業が挙って美術コンクールを立ち上げましたが、景気と共に潮が引くように、撤退していきました。特に東京の状況はお粗末としか言いようがありません。首都とはあくまでも経済の中心であって、決して文化の中心ではないということを無様に露呈してしまった様です。

 そんな中で、何とか文化の命脈を繋ごうと頑張ってくれている地方の活動もあります。今年の私の二つの作品(「重源」と「マタイ」)はいずれも兵庫県に出しました。あさご芸術の森美術館については、何度も書いた通り、小さな市を挙げて、美術で地域を活性化するという課題に、この20年間ずっと取り組んでいます。そして、日本芸術センターは都市建築に関わる企業として、やはり10年以上 美術界をサポートしてくれています。芸術センター主催の彫刻コンクールは前回まで東京でのコンペでしたが、昨年、神戸に日本芸術会館という立派な建物が完成し、今回からはそちらでの開催になりました。

 どちらも全くゼロからスタートして、スタッフは新しい企画の度に素人から育てているので、まだまだ美術展の運営や宣伝に不充分なところがあるかもしれません。でも、世の経済動向に関わらず、ずっと美術家を支援しようとする姿勢は一貫していて、信頼できます。私のこれまで二度の個展をあさご芸術の森美術館と東京芸術センターでやらせてもらったのも、そういう貴重な支援者とのパートナーシップを大切にしたかったからです。



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 この作品は、第7回日本芸術センター主催彫刻コンクール(2019年5月18日〜6月2日)に出品しました。遅まきながら、私も先週末(最終日になって)、初めて神戸の日本芸術会館に行ってきました。思っていた以上に立派な施設で、私の「ピカソ」と「不死身の人」も常設展示されていました。彫刻コンクールでは、別の展覧会で一緒になったことのある、顔見知りの数人とも再会することができました。

 さて、このコンペを含め、最近は彫刻の高さ、幅、奥行のサイズ制限がそれぞれ70cmという募集が増えました。この制約は、普段 等身の彫像制作を行っている私には、かなり厄介です。以前ここに出展した作品は胸像か、でなければ人形の様な小品ばかりでした。しかし今回はこの制約を逆手にとってやろうと思いました。

 これまで私は、 70cm立方と決められたら、全身をつくるのを諦めるしかない、と思い込んでいました。でも本当にそうなのか?と考えたのです。ある日、国立西洋美術館でロダンの彫刻を観ながら、70cm立方というサイズはちょうど等身の女性が入る大きさなんじゃないか?と気付きました。そこで、知り合いにモデルを頼み、色々なポーズを取ってもらうと、確かにそれ程 無理のない姿勢で収まることがわかりました。因みにこのポーズはヨガの休息の姿勢だそうです。

 予算、寸法等無制限の造形などあり得ません。むしろ制約が面白い形をつくるということを、今回改めて感じました。

 そして、このタイトルですが、「マタイ」は麻袋(またい)です。聖書との関わりで、勝手に深読みしてくれる人がいることを期待して、カタカナ表記にしました。私の作品でしばしば使われる麻袋ですが、今回はいつも以上に大役を担ってもらいました。コーヒー豆産地のプリントを柄として活かして、そのままワンピースに仕立ててみました。

 「伯剌西爾」はもちろんブラジルです。産地が違えば、「エクアドル」とか「コスタリカ」の可能性もあった訳ですが、そうならなかったのは、たまたまブラジル印の袋が手に入ったこと以上に、「ブラジル」という音韻に私が惹かれていたからだと思います。ロバート デ・ニーロの出ていた、「未来世紀ブラジル」というとんでもない映画がありました。ストーリーがどうのこうの言うより、とにかくその世界観が衝撃的で、有名なテーマ曲と相まって、とても記憶に残る作品です。この作品をつくっている最中、私の頭の中ではあの「ブラジル」のメロディがずっとエンドレスで流れていました。やはり、この作品のタイトルは、どうしても「伯剌西爾」でなければならなかったのです。

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 追伸:もう会期は終わってしまいましたが、第7回彫刻コンクールで、「マタイ(伯剌西爾)」が金賞をもらいました。結果は芸術会館のHPに載っています。