重源上人坐像模刻

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2019年 高82cmx幅76cmx奥行60cm 麻布、樹脂、漆、木、他

 昨秋亡くなった父の遺影は、最後の誕生日に病院で撮ったものでした。まさか、それからひと月もたたないうちに逝ってしまうとは思えない程、血色の良い、穏やかな表情で写っています。もうこの世にやり残したこともなく、世間の面倒とは縁を切った様なその顔が、ちょっと「重源上人坐像」に似ていたので、オリジナルを模刻してみることにしました。

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 実際に原寸でつくってみると、この像がいかに彫刻的な量感を持っているか、よくわかります。一見 痩せこけた老人の様で、実はかなり分厚い体躯をしています。制作にあたって、もちろん各部の寸法がわかる図面なんてあるはずもないので、何枚かの写真を基にしましたが、老僧というイメージから、必要以上に細くし過ぎて、後でボリュームを加えた箇所がいくつもあります。

 当時の運慶工房は分業制が当たり前だったので、首から上だけを棟梁がつくり、弟子のつくった体に差し込んだのだろう、というのが定説になっている様です。体の鑿跡が大胆でザックリしているのに比べて、顔の表情は緻密で的確、それでいて刃の勢いがあります。成る程、共作と言われれば、その通りなのかもしれませんが、だからと言って体の表現が稚拙という訳では決してありません。こうして、布で作り直してみればわかる通り、衣紋は自然で、破綻がありません。

 敢えて弱いところを探すとすれば、手でしょうか。80歳を越えた老僧の手としては若過ぎて、味がない様に感じます。ただし、それにしても、別にデッサンが狂っている訳ではなく、無難にまとめられてはいます。まあ、例え分業であったにせよ、頭部を彫った仏師のお眼鏡に叶う、相当 力のある、共作者であったことだけは、間違いない様です。

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 さて、私のこの模刻は、2019年7月7日まで、兵庫県のあさご芸術の森美術館で開催中の「人とアートの無限の繋がり1+1+1…展」で展示されています。お近くの方は是非(写真でなく)実作を見て頂けると嬉しいです。