那須連山

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2019年 10cmx15cm 紙、鉛筆、色鉛筆

 先週末は職場旅行で、栃木の黒磯温泉に行ってきました。温泉、料理共に申し分ない宿で一泊し、翌朝快晴の空に誘われて散歩に出てみると、すぐ前を流れる那珂川越しに、那須連山が広がっていました。

 私が教職に就いた頃、つまり今から30年以上前ですが、職員旅行は当たり前の年中行事でした。私の初任校には、それだけでなく学年旅行(所属学年毎の親睦旅行)、体育科主催のスキー研修旅行、PTA旅行なんてものまであり、それに移動教室や林間学校、スキー教室、修学旅行とその実踏(実地踏査)まで含めれば、一年中出かけてばかりいました。最初こそ、年長者に囲まれての旅行には職場の洗礼的なイメージもあって、ちょっと尻込みしていましたが、渋々参加するうちに、これはなかなか楽しいものだと気付きました。

 当時、新人類と言われた我々の世代は、プライベートと仕事を区別したがる傾向が強かったかもしれません。私もその例にもれず、学校の業務だけに人生を捧げるなんて真っ平だと公言していたので、OFFになる度に外で元気に遊び回っていました。時代はバブルに浮かれ、高校や大学の同級生達は大した苦労もせず、いつも羽振り良くご馳走してくれました。しかしやがて景気が落ち込むと、世の中は一変しました。異業種の友人達との連絡は途絶えがちになり、学校内での立場が変わるにつれて、私の方も自然に同僚との付き合いが増えました。

 中学校の教員が、バブル時代から今まで変わらず、多忙であることは間違いありません。私自身、ヒリヒリする様なせめぎ合いを何度か経験しました。その漢字に使われている✖️が表す様に、「學校」とは人と人が交わる最前線でもあります。大人だろうが子供だろうが、中途半端な覚悟で過ごしている人間はすぐに素性がバレてしまいます。そして、そんな現場で苦労を共にした同僚間には、だんだん一種の戦友的な結びつきが生まれてきます。中学校という職場では、皆がそれぞれ別の教科を担当することで、かえって互いを認め合い易くなるという一面もあるかもしれません。

 無論、同じ学校の教員間に、年齢や担当による立場の上下なんてものはありません。人として大切なことは、経験の数でなく、経験から学べるかどうかです。そんなことも、ずっと生意気な若造として生きてきた私には合っていたのでしょう。

 今、職員旅行や学年旅行をしない学校が増えている様です。行ってきたと人に言うと、「えっ!まだそんなことやってるの?」と驚かれることもあります。別に健全な人間関係をアピールするために、型通りの親睦旅行をする必要はありませんが、少なくとも、一緒に旅行したら楽しいと思える仲間と同じ職場で働けるのはラッキーなことです。

 そんな訳で、公私混同(ちょっと意味は違いますが)と言われようが、昭和の遺物扱いされようが、私は職場旅行推進派です。これまで務めた四校で(大きな事件で余儀なく中止になったことはありますが)毎年必ず参加してきました。今回も危うく失くなりそうなところ、有志が企画してくれて実現しました。

 那珂川の堤に腰を下ろし、葉書大の紙に水彩色鉛筆をはしらせながら、しみじみ自分の教員人生の強運を噛み締めた 爽やかな冬の朝でした。

(実はこの後にも色々面白いことがあり、大笑いして帰ってきました。ただ、こういう旅行でひとつ困るのは、あちこちで美味いものを飲み食いしまくる結果、帰宅後はやや食傷気味になってしまうことです。)