吐竜の滝


2014年 32cmx41cm 紙、鉛筆、アクリルガッシュ
 この夏はずっと東京にいました。せっかくの休みなのに…という訳で、8月下旬、ほとんど観光客がいなくなったのを見計らって、清里小淵沢方面を日帰りドライブしてきました。思えば大学生の頃、友達に誘われてバイトしたリゾートホテルが甲斐大泉にありました。その後、最初に勤めた中学校の林間学校や移動教室の舞台もこの周辺でした。
 当時、同学年所属のO先生は素晴らしく面白い先輩で、随分色々なことを教わりました。例えば「今日は滝巡りコース」という風にして、この辺りの絶景スポットにもあちこち連れて行ってもらいました。その内の一つがこの吐竜の滝(どりゅうのたき)です。30年前は、まだ今のように道も整備されておらず、清里駅から二人でかなり歩いて辿り着いたような記憶があります。突然開けた視界に飛び込んできた、予想を裏切る滝の姿は、苦労した分余計に印象深く脳裏に刻まれました。その後、訪れる度に清里の開発と俗化は進みました。とうとう近くに駐車場までできてしまい、有難味は薄れましたが、それでもこの滝の超然とした佇まいだけは昔と変わりません。
 今年は水量がやや少ないように感じましたが、山膚を這う溶岩のような白い流れと辺りの空気を満たす飛沫、(マイナスイオンの影響なのか)滝の周りだけまるで別天地みたいに黄色い花が咲き誇っている光景を前にすると、いつもながら太刀打ちできないという気持ちになります。そして、よりによって今回持って行った絵具は、学校教材用の粗悪な試供品でした。「こんな使いづらいセットは絶対に採用するもんか!」と心の中で毒づきながら、非常に苦労して色をつくり、何とか描き上げたのがこの絵です。とても吐竜の滝の全容を伝えているとは言えませんが、緑の中に白い線が並ぶ抽象画のような、一風変わった景色になりました。