長次郎「ムキ栗」写し茶碗


2008年 口径11.5cm(対角14.5cm)、高9.5cm
 楽焼の創始者、長次郎は轆轤を使わずに指先だけで、利休好みの寡黙な黒茶碗や赤茶碗をたくさんこしらえました。無駄を削ぎ落とし、両手にちょうど馴染むように作られた茶碗は、一見自己主張とは無縁のようでいて、実は存在を強烈にアピールしています。柳宗悦はその作為性を嫌い、井戸茶碗とは対極にあるものだと弾劾しました。同じく井戸茶碗を愛し、それを茶の湯に持ち込んだ張本人と言える豊臣秀吉も黒楽茶碗は好まなかったようです。やすやすと千利休の術中に嵌ることを、武将の本能が拒んだのかもしれません。

 この「ムキ栗」という銘のついた茶碗は長次郎作と伝えられるものの中で異彩を放っています。酒を飲む枡じゃあるまいし、茶を飲む器が四角だなんて常識を超えています。利休好みの四方(よほう)茶釜との形の共通性も言われますが、「使えるかどうか取り敢えず作ってみました」的な清々しい作為が感じられる名碗だと思います。さて、この写しを作るに当たって、長次郎特有の黒肌を釉薬で再現することが難しく、ちょっと変わった方法で仕上げることにしました。ムラのある微妙な黒、実は釉ではありません。本焼きをした器に生漆を塗り、200℃で焼き付けてあります。例によって、私の手に合わせて、一回り(以上?)大きく作ってみました。