五輪


2008年 140cmx140cm 麻布、樹脂、胡粉、墨、柿渋、弁柄、竹、麻紐
 丸や三角を描いて楽しいの?と訊かれることがありますが、まあね、と答えます。正確に言うと、作業そのものが楽しいわけではなく、つくったものの中に面白味を見つけることが楽しいのですが・・。こういう絵は焼き物と同じで、秩序や決まり事の隙間に美が潜んでいます。貫入や梅華皮(かいらぎ)なんてその最たるものです。書でも、かすれや滲みを欠点とは言いません。寧ろキズひとつ無い抽象形こそ雑味のないエチルアルコールみたいで不味いものです。
 作品は光や空間の調った所に展示されるべき、とは限りません。薄暗い部屋で酔っぱらって観た方がいい場合もありますし、煙や日焼けが作品の味になることだってあります。私は、どちらかと言えば、新しいものよりは古いもの、磨き上げられたものよりは粗削りなもの、フラットに塗られたものよりは塗りムラのあるものが好きです。手作業の中には人智を超えた偶然が紛れ込んできます。つくった本人さえ気付かないそういう旨味を発見していくのが、決まり切った形をなぞることの楽しみであり、また新たな作品へ向かう動機にもなるのです。