立体と平面、具象と抽象について ②

 レオナルド・ダ・ヴィンチミケランジェロが、それぞれ絵画と彫刻の優位を主張した芸術論争は有名ですが、制作時の「脳の働き」だけに着目してみれば、私は、ややミケランジェロに分があるように思います。パズルにしても、2次元と3次元では難易度がまるで違ってきます。もちろん、それぞれの表現に向く主題も異なりますから、単純に比較することはできません。ただ、ひとつ言えることとして、優れた彫刻家は皆、良い画家でもありますが、優れた画家が必ずしも良い彫刻家とは限らないようです。
 ダ・ヴィンチは、『絵画論』の中で、肉体労働によって生み出される彫刻は、絵画より一段下であると述べていますが、それはそのまま絵画の弱点を認めているようにも思えます。絵を描く人間は、しばしば「絵画の全能性」という幻想に捕らえられてしまいます。観て心地よいとか、美に共感するという枠を超えて、説教調になったり、装飾(自意識)過剰になった絵にはもう、うんざりです。身体性から離れた表現は、どうしても観念的になっていきます。やはり何事も頭でっかちじゃいけません。

 さて、絵画と彫刻は、一部重なる所もあるにせよ、守備範囲が違います。美術表現として、どちらが上とか下ではなく、相互補完的な関係とも言えるでしょう。私の場合、彫刻をやってみて、ようやく肩の力が抜けた絵を描けるようになりました。逆に、彫刻に行き詰まった時は、絵画に向かうに限ります。こうしてみると、立体と平面は、私が前に進むための、両足のようなものかも知れません。