表現と工芸について ①

 美術の学校に行って驚いたのは、高校や大学を出たてで、陶芸や木工といった、専門工芸分野に進もうと考える若者が大勢いたことでした。たかだか二十歳前後の人間は皆、自分と同じように自己顕示欲ばかり強くて、「表現」にしか興味がないものと思いこんでいました。
 どちらかと言えば、絵画専攻の学生が軽く浮ついたキリギリスみたいだったのに対して、木工職人や陶芸家の卵達は、美術系には相応しくない、寡黙で堅実なアリに見えました。もしかすると、キリギリスとアリは互いにちょっと相手を見下していたかもしれません。「イマジネーションのない奴らめ。」とか、「役に立たないゴミばかりつくりやがって。」とか…。

 今でこそ、私も、ものをつくるには自由な発想と着実な作業の両面が必要だということを理解できます。見て楽しむ美術があれば、使って味わう美術もあると知っています。いじけた画家や彫刻家をたくさん見てきたかと思えば、市川君みたいに生活すべてを楽しむ、自由で豪快な木工作家とも出会いました。
 結局、絵画であれ、彫刻であれ、陶芸であれ、木工であれ、やわらかい頭と働き者の身体がなければ始まらない、ということに尽きます。若いときには思いも寄りませんでしたが、はじめから表現と工芸の違いなんてものはなかったようです。