『麻でつくる』彫刻技法について ③

 漆の使い方も全く違います。漆は紫外線以外に天敵のない、強靱な塗料(接着剤)ですが、いくつか問題点を持っています。まず非常に高価であること。さらに乾くのにとても時間がかかる上、一旦固まると刃が立たない程堅くなってしまうこと。(もちろん、これらは漆の長所でもあります。)そのため作業のペースが制限されるだけでなく、つけては削るといった即興的な制作にも向きません。貴重な漆を使って造像するためには、しっかり型を作って根気よく仕事を進めていく必要があります。カーヴィング(削り)によるスピード感や動きの勢いを作品に盛り込むことはとても難しいのです。
 そこで私は成形には漆を用いず、すぐに乾く酢酸ビニル樹脂(いわゆる木工用ボンドですね。)を使っています。それによって骨格を持たないモノコックボディの造像が可能になります。アドリブ的なつけ加えや大胆な修正も自在です。なにより私にとって彫刻とは、削ることによってようやく形が見えてくるものなので、大まかにモデリングしたものを気の済むまでカーヴィングできるこの技法はうってつけと言えます。