『麻でつくる』彫刻技法について ④

 主に私が使っているのは、おそらく乾漆で用いられることのない極粗目の麻布です。麻袋をそのまま利用することもあります。形ができた作品の表面に漆を塗って仕上げるのですが、その際なるべく粗い麻の風合いは残すようにしています。ふつう乾漆像では、できる限り表面をなめらかにして、場合によっては白土や胡粉などを塗ってから、彩色します。でも私の作品では、せっかくの質感と色を塗り込めてしまうのは惜しいので、そのまま生かしています。

 ところで、絵具としても漆ほど優れた画材は見当たりません。法隆寺玉虫厨子の捨身飼虎図はずっと密陀絵と言われてきましたが、近年彩漆画(さいしつが)であったことが明らかになりました。多湿な日本で千四百年以上も絵が持ちこたえることができたのは、やはり漆だからこそでしょう。
 私の初期の彫刻作品では、麻との相性を考えて、油彩を用いていましたが、保存状態によっては一度乾いた油がゲル状に戻ってしまうことがありました。仕上げに漆を使うようになって、その問題は解消しました。
 そして、耐候性にも増して、絵具としての美しさこそ、私が漆を作品に使う最大の理由です。透明な艶のある黄褐色の漆は日本人の肌を塗るのにぴったりですし、黒や朱と混ぜたり、濃度を変えて使うことで、あらゆる人物表現が可能になります。漆の深みのある色彩を手に入れて、ようやく私の『麻でつくる』彫刻技法が形になったように思います。          −終−