N嬢

2022年 高さ160cm 麻布、樹脂、漆、木、他

 今回、TARO賞展に展示した作品の内、最後にぎりぎり間に合わせたのがこの立像です。昨夏につくり始め、漆が乾くかどうか微妙でしたが、何とか出展に漕ぎつけました。初めから搬入日を見据えて、遅滞なく作業を進めていったので、構造的にもほとんど無駄なく、非常に軽く仕上げることができました。やはり制作において、スピードは大切です。

 モデルは職場の同僚です。若いのに教員として一番大事なカリスマ性を備えた、楽しみな先生です。普段は動き易いパンツスタイルで仕事していることがほとんどですが、去年の夏休みにこんな、まるで妖精の様な姿で登場した日がありました。当然、その場ですぐモデルになってもらいました。身長の割に手足がスラリと長く、ご覧の通り、素晴らしい存在感でした。つくりながら、ピグマリオンやコッペリアのお伽噺が頭に浮かんできたのには、自分でもちょっと呆れましたけど。

 今回のTARO賞展ではブースの前方に設置したため、顔への照明がやや暗かったのが少し残念でした。だからなのかわかりませんが、観る人によっては「怖い」という感想も聞かれました。特に子供に顕著だったのは、瞳がないことにこだわる傾向でした。これは会期中にかなり多くの人から聞かれて答えましたが、私は、別に白眼にすることで、虚無感や無常感を演出しようとしている訳ではありません。そもそも白眼にしたつもりもないのですから。以前、試しに作品に瞳を入れてみたことがあります。すると、なぜか周りの空間ごとロック・オンされる様な閉塞感があり、おまけに人物像としての気配も弱くなってしまいました。それでは意味ないからやめた、というのが真相です。あくまでも瞳の位置を限定せずに表現したらこうなっただけであって、敢えて白眼にしようと考えた結果ではないのです。「モディリアーニの絵みたいですね。」と言ってくれた人がいましたが、まあ、そういうことかもしれませんね。過分な評価ではありますが。