絵画と写真


2015年 15cmx22cm 紙、鉛筆、水彩
 絵画と写真には、複眼と単眼による捉え方の違いが表れるようです。絵画では、物の左右の範囲はもちろん、奥行きや上下についても、両眼の微妙な高さの差から、多少拡張される傾向があります。さらに、当然のことながら、写真より時間をかけて描かれる絵画の場合、目を留めているつもりでも、ズレの分だけ見える部分は広がります。

茶碗 2014年 高7cm、径13.5cm
 自作の茶碗を組んで絵を描いた後、同じ視点から写真を撮ってみました。紙の色の分、やや絵は暗く見えますが、それよりも写真の茶碗の方が浅く平べったいのに注目してください。私たちは、両方並んでいると、つい写真こそ真実と思いがちですが、実物の茶碗と比べると、より形を正確に伝えているのは絵かもしれません。少なくとも、人の感覚に近いのは、小ぶりながら両手で包める深さと高さを持った絵の茶碗の方だと思います。常に動き続ける複眼で見て描くことで、絵は、殊更キュビズムに依らずとも、その中にリアルな時間と空間を持つことができるのです。
 写真がダメだと言っている訳ではありません。絵の様に、1枚で人の感覚に近い時間や空間を表すことが難しかったら、たくさん撮ればいいのですから。そもそも、真実を写すことばかりが大切とは限らないのです。絵画とは逆に、いかにもホントらしく嘘をつくことができるのは、むしろ写真の一番面白いところだとも言えます。