空間と作品 ①

 11年前に我家を建てた時、限られた条件の中でしたが、家の全体像を含めたかなりの部分で自分の描いたスケッチを実現してもらいました。一階を作業場兼宴会場のやや広いスペースにしたいとか、ペレットストーブを導入して家全体を暖める構造にするとか、盛り込む要素はいろいろありましたが、設計の基本線は木の軸組みと土壁の和モダン住宅でした。柱や梁のつくる縦横斜めの直線と木の色を生かし、なるべく素のままの空間にしたいと思いました。

 最初、一階のイメージはこんな感じでした。蛍光灯の向きとか窓の大きさとか、ちょっと変わった所もありますが、ほぼ近い形に仕上がりました。部屋の大きさは14畳弱で、奥1/3の吹き抜けに天窓もあるので、北側の割には暗くありません。構造上の強度を保つため、柱を1本入れたいという大工さんの判断で、娘の身長計もできました。作業用(宴会用)の机はゲイミンカンの市川君に頼んで、ずっと大きなものを作ってもらいました。

 実際に住み始めると物は増え、インテリア雑誌に出てくるようなおしゃれな住宅とは程遠い、巣窟染みた空間になっていきました。ホテルオークラのロビーみたいな洗練された和モダンの住まいは魅力的ですが、生身の人間が生活する場ではありません。常に自分の中の生物的な部分をカットしながら暮らしていくなんて窮屈すぎます。人も動物ですから、意識しているにせよ、していないにせよ、テリトリーをマーキングすることで自分と周囲との融和を図ります。白い部屋に閉じ込められた囚人が壁を汚し始めるように、私の場合は作品を満たしていくことで空間に馴染もうとしているのかもしれません。気が付くと、彫刻だけでも大小合わせて19体がこの部屋にひしめいています。別に展示している訳ではなく、保管場所がないため、仕方なく置いてあるのですが。しかしながら、改めて眺めてみると、作品があることでこの部屋の生活臭は却って抑えられているような気もします。具象彫刻ほど人間臭いインテリアはないように思えるのに、考えてみればちょっと不思議です。