胸像制作 ③


 腕の芯になる筒状の麻布を張り付けます。このサイズの胸像では手を入れるかどうか、悩むところです。養老孟司さんが、人体の解剖実習で触れることが最も躊躇われるのは目と手だと、何かに書かれていました。呼吸をしていない身体であっても、目と手だけは今にも動き出すように感じられるのだそうです。それだけ手の存在感は強く、彫刻全体のイメージを左右します。但しできが悪かったり、不自然だったりすると、作品をぶち壊しにしてしまうこともあるだけに悩みの種です。
 考えてみると、美術は専ら目と手に関わる活動です。美術を学ぶ究極の目的は、本物を見分ける目とイメージを実現する手を鍛えることに違いありません。その人の生き方が少なからず表れた「手」から逃げず、なるべく胸像にも入れてつくっていくことは、私のささやかな意地でもあります。