相−日本人であること


2002年 170cmx190cmx60cm(台座含む) 麻布、樹脂、油彩、木、他
 老子は道徳経の中で、水について「柔らかく従順で低い場所に流れていくが、岩の隙間にしみ入ってどんなに強い崖も崩してしまう」というようなことを語っています。世の中で強く見えるものが必ずしもそうではなく、穏やかで柔軟なものこそ本当に強いという例えです。
 今回の震災で、水はとことん凶暴で意地悪に見えました。大津波と言い、原発の冷却水と言い、飲料水の買い占めと言い、まさに水の力の前に人は為す術のない有様でした。水の比喩こそナンセンスですが、しかし老子の教えは生きていると感じます。穏やかで柔軟で最も強いのは、運命を受け入れて淡々と生きる被災者であり、任務を背負って現地で活動する消防隊員や自衛隊員です。被災地では暴動も略奪も起こらず、隊員達はやはり淡々と(不眠不休で)救助を続けています。
 それに引き替え、東京では、当座の危機が無くなったと見るや我先にあさましい行動に出る人も多く、もし自分が被災者になった場合、果たして東北の人たちのように静かにいられるか、考えずにはおれません。
 この作品のモデルは友人達です。縄文系、弥生系の特徴が顕れた相貌こそ異なりますが、各々が日本人であることを受け入れて生きる強さを持った人たちだと思います。