川喜田半泥子

 陶芸界の孤高のアマチュアと言えば、川喜田半泥子です。半泥子は伊勢の豪商・川喜田家に生まれ、第百五銀行頭取を務めた財界人ですが、轆轤を回し、書画を好くする数寄者でもありました。彼は自邸に窯を築き、その後半生だけで3万点と言われる陶芸作品を残しました。

 陶芸家が、気に入った物だけ残して、焼き上がった作品を次々割っていくのを見たことがあります。プロフェッショナルとして当然だと言われれば成る程と思いながらも、何か割り切れない気持ちが残りました。が、半泥子は違います。土に亀裂が入れば、藁で縛って焼き、それでも焼き上がりのキズが大きければ漆で継いで器にしました。○○焼と言われるような作品は火との一期一会が鉄則ですが、半泥子は気に入らなければ何度でも釉がけして焼き直したようです。
 別に商人だからケチな訳ではなく、おそらく半泥子という人は、偶然やキズまで含めて、ひとつひとつの作品を尊重したということなのでしょう。『不況下の銀行の舵取り』という激務の合間の作陶は、彼にとって掛替のないものでした。手塩にかけた茶碗を、失敗作だからといって、叩き割ることはできなかったはずです。寧ろ、欠点だらけの物にも、人にも、良いところを見つけ出せる才能こそが、陶芸家として、また組織の長として、半泥子を孤高の存在たらしめたのだと思います。