"DYLAN" ②


2013年 154cmx80cmx80cm 麻布、樹脂、木、鉄、漆、アクリル塗料、サングラス
 日本では『フォークの神様』なんてつまらない呼ばれ方をしたこともありましたが、ボブ・ディランほどROCKを体現したミュージシャンはいないと思います。1965年、彼はそれまで通りのフォークソングを期待していた観客の前に、突然 エレキギターを下げて現れました。裏切られたと怒るファンのブーイングは収まらず、仕方なくアコースティック・ギターに替えてコンサートを続行するなんてこともあったようです。その年にディランは"Like A Rolling Stone"をリリースします。40年後にアメリカのローリングストーン誌がROCKの名曲500曲の第1位に選んだこの曲を、初めてライブで演奏する頃、しかし、形勢は逆転しつつありました。相変わらずバカの一つ覚えのように「ユダ!」と罵る観客に向かって、彼はステージ上から"I don't believe you.You are a liar!"と応戦し、因習に縛られた世間をねじ伏せるように大音響を叩きつけたのです。

 幸い、当時のボブ・ディランを記録した写真や映像はかなり多く出版、公開されています。散々言い古されたことですが、アメリカ人好みのマッチョからは対極にあるような、知的で美しい顔立ちとほっそりしたスタイル、そして そんな風貌とのギャップが甚だしい声と強烈なメッセージ。西洋の神話や歴史のエポックに登場する預言(予言)者というのはおそらくこんな風だったろうと思わせる、強いカリスマ性がそこにあります。

 私はだいぶ前に一度だけ、武道館でディランのライブを観たことがあります。若い頃より声域が低くなり、更にアレンジを変えて演奏されると原曲が何だかわからないものもありました。無駄口もきかず淡々と歌うボブ・ディランとの距離は、座席が後ろの方だったこともあり、同じ屋根の下にいると思えない程遠く感じられたものです。既に歴史上の人物でもありますし、直接 会って話したいなんて大それたことは言いません。でも、もしチャンスがあったら、この作品を本人に見てもらいたいというのが目下の私の望みです。誰か手引きしてもらえませんかねぇ?