井の頭池⑴

2023年 25cm×32cm 紙、鉛筆、水彩

 ちょうどボート乗場の改修工事中で、邪魔者のいない井の頭池を描きました。今にも降り出しそうで(実際ちょっとパラっときました。)少しは暑さが収まる予報でしたが、途中から日が射し始め、やはり汗だくのスケッチとなりました。この異常気象の影響もあるのか、池の周りの木々の傷みが目につきます。

 井の頭池と言えば、40年前の花見の時期には、水面スレスレを取り巻くソメイヨシノが見事に咲き揃っていました。夜になると花は妖艶に青白く光り、アルコールの効果と相まって、この世のものとは思えない一種異様な雰囲気を醸し出していました。誘蛾灯に惹き寄せられる虫のごとく、おめでたい若者たちが群がっていたことは言うまでもありません。当時はその能天気な我々に負けない程元気で、池にダイブするかに見えたサクラでしたが、無理な姿勢が祟り、また大勢の人間に踏み固められた地面に根を張ることができず、今や文字通り倒木と化しています。池に浸かった枝は枯れ、辛うじて残った枝にもほとんど葉はありません。公園のあちこちに残された痛々しい切り株ばかりが目立ちます。

 さて、善意の傍観者面で書いていますが、とんでもない。この井の頭池の環境破壊の責任は間違いなく私たち世代にあります。毎年大勢で浮かれて桜の根を傷つけ、湯水の様に垂れ流したエネルギーで異常気象と大気汚染を呼び寄せたのは、戦後〜バブル期ジェネレーションに違いありません。全てのソメイヨシノの寿命がそろそろ限界に近づいているとは言え、「ドリアン・グレイの肖像」の様に老醜を晒す井の頭公園の桜を見て、何も感じない訳にはいきませんでした。