休校

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2020年 33cmx27cm  紙、鉛筆、水彩

 誰もいない学校の廊下を描いてみました。電灯が消された校舎の一階は所々薄暗く、突き当たりの非常ドアが、もう使われなくなった辞書の表紙の様です。窓の側のリノリウムの床だけ、何だか嘘っぽく光っています。

 新型コロナ休校が続いています。誰も、どうすれば大丈夫という、絶対的な解決策を持っていない以上、人が集まる場所を閉鎖するのは仕方がないのでしょう。しかし、こうなってみて、私が1985年に教員になってから丸々35年間、ずっと当たり前だと感じていた日常が、いかに薄氷の上にあったのかということを、改めて思い知らされています。まさか、学校のない毎日がやって来るとは、ついこの間まで想像すらしませんでした。

 街の風景や、季節の進み方は何一つ変わっていないのに、その中で人の動きだけが止まってしまった状況というのは、なんとも異様です。思い上がった人間が、バーチャルに作り上げてきた価値は、社会の活動停止によってその意味を失い、今次々に淘汰されています。世の中から余剰が消え、人々は各々の洞穴で暮らす、原始時代に戻ってしまったかの様です。

 「ステイ・ホーム」とか「ソーシャル・ディスタンス」なんて、取ってつけたような横文字のスローガンにはウンザリです。中身のない戯言ばかりバラ撒かれ、全く日本の一般庶民も舐められたもんです。週末に仲間で一杯という、ささやかな楽しみさえ奪われて、「これからの新しい人との距離」も何もあったもんじゃありません。こうなったら、得意の忍耐強さでサナギにこもって、羽化するまで機が熟すのを待つしかないのかもしれません。愚痴ったり、誰かのせいにしたり、怒鳴ったりしても仕方がないので、こういう時は、騒がず、焦らず、せめて自分の羽を繕いながら過ごしたいと思います。「座して時を待つ」と婆娑羅の軒先にも書いてありました。