春風萬里荘

2023年 25cm×32cm 紙、鉛筆、水彩

 笠間日動美術館で開催中の「北大路魯山人展」に行ってきました。今出ている魯山人関係の本は大抵読んだと思いますが、彼のことを良く言う人、悪く言う人、どちらも沢山いて、いずれにせよ面白いエピソード満載です。最近も「食客論」という本でとても興味深い取り上げられ方をしていたので、丁度タイムリーな魯山人展には矢も盾もたまらず出掛けてしまいました。

 さて、魯山人自身は、(陶芸の人間国宝に推されたのにそれを固辞した時だったでしょうか)自分は作家として一流ではないが、ものを審美して批評する眼だけは持っている、という様な発言をしています。料理の衣装として器の理想形を桃山陶に見い出し、自ら料理を盛る器を作ったセンスは間違いなく本物です。我が強い人間と思われがちですが、手になる焼物は決してそんなことはなく、常に料理を最高に引き立てる脇役に徹しています。日本美術史上、利休、本阿弥光悦と並ぶ三大敏腕プロデューサーであったと私は確信しています。

 「魯山人展」の後、春風萬里荘にやって来ました。魯山人が北鎌倉で晩年を過ごした茅葺きの屋敷がそのまま移築され、庭園も整備されて、日動美術館の分館として公開されています。ここは私のお気に入りの場所の一つで、笠間に来る度に訪れていますが、何度来ても飽きません。今回は庭の一番高いところから描きました。周囲の木立に茅葺き屋根が美しく馴染んでいる様子は、まるで織部秞をかけた魯山人オリジナルの俎皿に、小ぶりの田舎寿司を並べてみた風情でした。