禅林寺の桜


2016年 22cmx27cm 紙、鉛筆、水彩
 来月は桜桃忌です。去年から今年にかけて、俄かに思い立って、今まで近寄らなかった太宰治の本を読んでみました。小説以上に奇なる事実―作者の人生―についての情報が巷に溢れているので、普通に考えればありえないような主人公の造形にさえ、リアリズムと魅力を感じました。決して友達にしたいタイプではありませんが。繰り返される太宰の実生活上の出来事の描写は、読者をじわじわ共犯関係へと引きずり込んでいくようです。私の生活圏を舞台にした作品が多く、また文章も綺麗なので、あっという間に文庫本はみんな読んでしまいました。
 よく車で通る道沿いに禅林寺があるのは知っていました。考えてみれば、職場のすぐそばには玉川上水が流れていますし、三鷹や杉並は太宰治ゆかりの場所だらけです。今まで特に興味もなかったので訪ねませんでしたが、スケッチ場所を思案していて、ふと思い出したので行ってみました。連雀通りから見える中国風の門はちょっといい雰囲気に思えましたが、近づくとつまらない現代建築でした。本堂もありきたりで絵になりません。仕方がないので、そこにあった地図にしたがって裏の墓所に向かいました。案の定、人のいる所が太宰治の墓と、その向かいにある森鴎外の墓でした。まだ6月ではないので、引っ切り無しという程ではありませんが、誰かが去るとまた誰かがやって来るという具合で、新しい花が供えられていました。二人の墓の近くに太い幹の桜がありました。桜は陰の気を吸って大きくなると言われますが、まさにその証の様な巨樹です。節くれ立ち、苔を纏った古木は、両腕を振り上げた巨人に見えなくもありませんでした。