猿楽塚

2022年 22.5cm×16cm 紙、鉛筆、水彩

 代官山にヒルサイドテラスという、有名な建築があります。私が近所に住んでいた45年以上前に、A棟B棟はもうありましたから、かれこれ築50年を超えているはずです。まだ高校生だった時、家族でここにあったイタリアンレストランに来たこともありました。その後、店は代わり、C棟からH棟、さらにデンマーク大使館が増築されて現在の形になりましたが、その中に樹々が鬱蒼とした一角が残されています。ここは古墳時代末期の墳墓で、今はその天辺に小さな社が祀られています。

 ずっとこの近くの教会に通い続けている母を、日曜日毎に送って来ると、猿楽塚の向かいのTサイトに車を停めて、だいたい本やCDを物色しながら待っています。でも、時々引き寄せられる様に通りを渡って、茂みの中を覗きに来てしまうのです。猿楽町という町名の元になった古墳は昼間でも薄暗く、何かがいる気配に満ちています。立ったまま絵筆を動かしていると、その何かには会えませんでしたが、まだしぶとく生き残っていた蚊の総攻撃に遭いました。もしかすると、これも「近づくな。」という虫の知らせなのかもしれません。