古里附のイヌグス

2022年 41cm×32cm 紙、鉛筆、水彩

 この夏はバカに暑かった割に、外でたくさんスケッチしました。学校の引越しやTARO賞展後の作品片付け・整理やらで、立体制作する時間も場所もなかったのが大きな理由ですが、一人で出掛けて絵を描くのが楽しく感じられる様になってきたこともちょっとあります。

 何も考えずに車に乗ると、つい西に向かってしまいます。私はよほど岩と樹と水が好きなのでしょう。だいたい奥多摩近辺まで走らせて車を停めることになります。この日は古里と鳩ノ巣の間に大きなイヌグスがあると聞いたので、行ってみることにしました。

 イヌグスは別名タブノキとも呼ばれ、鎌倉の御霊神社にある立派な樹を前に描いたことがあります。この古里附のイヌグスが一体どこにあるのかと探したら、青梅街道とJR線路に挟まれた、恐ろしく窮屈な場所で健気に根を張っていました。蔦に覆われた巨獣の様な胴体が、人の背を超えた辺りで大きく二つに分かれています。絵の右半分、道路側の太い幹は折れてしまって、樹勢も盛んとは言えませんが、鉄のつっかえ棒を何本か当てられ、何とか左側の幹から枝葉を出して頑張っていました。

 小さな藪蚊に何箇所か刺されながら、1時間ちょっと粘って描きました。気付くと巨樹の幹の暗い窪みが虚(うつろ)な目や口と化して、痒みや汗に手こずる私の様子を静かに眺めていました。