山間の稲田

2023年 25cm×32cm 紙、鉛筆、水彩

 夏の終わりに、しばらくぶりで上越を訪ねました。今回は2年前に亡くなった友人の墓参ということで、仲間10人の賑やかなツアーになりました。

 折しも上越市は謙信公祭の最中で、メンバーの一人は、春日山神社で行われた砲術奉納に火縄銃の撃ち手として参加するため、我々とは別行動でした。まあ、せっかくだからと、その勇姿を見物に行ったことは言うまでもありません。8月後半とは言え、上越でも猛暑は凄まじく、袴、陣羽織姿での奉納発砲はかなり大変そうでした。私もちょっと担がせてもらいましたが、450年前の火縄銃は非常に重く、銃身は分厚い鋳鉄で造られていました。空砲でもその威力は相当なもので、目の前に雷が落ちたかという程の腹に響く轟音と、撃ち手の肩をタックルする様な衝撃が、観ているこちらに伝わってきました。どうせ祭りの添え物だろうと高を括っていましたが、思いの外大迫力で、見応えのある砲術奉納に、皆「来た甲斐があった。」と大喜びでした。

 晩は、市の中心部から少し山に入った宿を取っていました。ゆっくり温泉につかり、しばらくぶりに皆で膳を囲み、色々思い出すまま歓談するうちに夜は更けていきました。常々一人で篭って作業することの多い私ですが、やはり人間、時々は仲間と会話を楽しみながら過ごさなきゃダメだと再認識した晩でした。

 翌朝、いつも通り早く目覚めてしまったので、宿の周りを歩いてみると、こんな景色が広がっていました。「熊出没注意」の看板がある、露で湿った土手に座って、小一時間スケッチしました。上越に住んでいた頃なら、あまりにも当たり前で描く気にならないモチーフですが、はるばる東京から来てみると何とも有難い風景なのでした。偶々その前日、テレビで「上越地方の田圃が雨不足と酷暑で壊滅状態です。」なんて報道番組を観たばかりでした。でも、少なくとも私が車で通った範囲の田圃は(各農家は苦労しているのかもしれませんが)しっかり実っていて、少し安心しました。メディアの無責任な煽動には踊らされちゃいけませんね。