ニュルンベルクのビアマグ

2023年 22.5cm×16cm 紙、鉛筆、水彩

 もう35年くらい前になりますが、友人の誘いで(何から何までお膳立てしてもらって)、当時の西ドイツに旅行したことがありました。その友人は少しドイツ語ができましたが、私は全く喋れず、どこに行ってもお荷物状態の2週間でしたけど。大学で知り合ったドイツ人、ゲオルグがニュルンベルク近くの実家に泊めてくれたお陰で、観光地だけ巡る旅行社のツアーとは一味違う、貴重な体験をさせてもらいました。ヨーロッパの若者たちの普段の生活も垣間見ることができました。途中、007映画に出てくる様な鉄道に乗って行ったウィーンももちろん素晴らしかったですが、私にはニュルンベルク郊外のマルロフシュタイン村で過ごした時間が、何より贅沢に思い出されます。

 時々電車に乗って行くニュルンベルクの市街もとても美しく、第二次大戦で破壊され尽くした街並みをよく再建したものだと感心しました。最後に出かけた時に買ったのがこのビアマグです。素朴な絵付け陶器のジョッキが名産の錫工芸の蓋で覆われて、ちょっと洒落ていました。それにしても「なぜビアマグに蓋?」といつも思っていましたが、実際に行ってみてわかりました。ドイツでは昼も夜も外で飲むことが多く、虫が飛び込んできてしまうのです。ほとんどの人は(私も含め)気にせず、そのまま飲んでいましたが。という訳で、この蓋付きのマグは日本でもっぱら観賞用として、こんな風に時々ドイツを懐かしむための置物となっています。

 あの後しばらくして東西ドイツは統一され、ドイツ人のゲオルグはベルリンの壁の塊を持ってきてくれました。ちょうど中学3年生の担任だった私は、教室でそれを砕き、クラス全員に卒業記念として渡しました。私のところにも破片が一つあったはずなのですが、どこかにいってしまいました。あの頃は一クラス40人以上いたので、多分誰か一人ぐらいは無くさずに持っていてくれるでしょう。配っといて良かった。