北大路魯山人

 北大路魯山人星岡茶寮を始めるとき、本物の器が買えないならば、作ってしまえということで、やきものの道に踏み込んでいきました。理想の桃山陶をできる限り再現すべく、全国の古窯を巡り、陶片を集め、桃山時代の敏腕プロデューサーになりきって『美しい食物の着物』を数多く生み出しました。 
 「本物を作る」という、魯山人の気概と、「器は料理を盛るためにある」という割り切りは、健全な陶芸家の精神そのもの、いやすべてと言っていいように思います。

 自分が本当に欲しいものを求めた結果、魯山人は独りよがりの自由な創作から距離を置き、桃山の精神と同化する道を選びました。オリジナリティなんて主張は、陶芸の歴史からすればカスみたいなもので、理想のモデルを追うことによってしか、やきものの道は極められないという判断でしょう。孔子が「述べて作らず」と先王の道を説いたように、魯山人は多くの作品によって、やきものの理想の形を示しているようです。