福浦漁港


2013年 25cmx34cm 紙、鉛筆、水彩
 今日は久しぶりの平日休みだったので、真鶴へ一人でスケッチに行ってきました。今から60年前、画家中川一政は小さな赤い灯台のある防波堤にキャンバスを立てて、晴れた日には毎日、この漁港を描き続けました。当時のことを中川は、掻堀(かいぼり)の日々だったと振り返っています。掻堀とは掘ったばかりの井戸水が澄むまで泥水を掻き出す作業のことです。思うような絵が描けなかった画家は、いつまでも濁った水を汲んでは捨てるように、或いは達磨が岩に向かうように、何年間も防波堤に立ち続けたそうです。
 さて、実際に同じ場所から見ると、別にどうということのない、ありふれた漁村の風景です。が、描いてみると…、海の匂い、波や舟の音と雑じって風景が生きていることに気づきます。一見当たり前の景色の中に、簡単には汲み尽くせないリアルな生命があるのです。このところ私自身の制作も思うように進まないことが多かったので、聖地を巡礼するような気持ちも少しありました。必ずしも満足できる絵ではありませんが、潮風に吹かれながら2時間ばかり過ごして、良い気分転換になりました。港の食堂で美味しい魚を食べ、中川一政美術館で90歳を過ぎて描かれた素晴らしい作品をたくさん観て、帰ってきました。