風貌〜村上力展 作者の言葉

 彫刻や絵画の題材として最も起源的かつ一般的なのは、言うまでもなく「人」の姿・形です。人が人に興味を持ち、それを再現しようとしたところから、すべての造形は始まったと言ってもいいでしょう。世界中に具象彫刻は溢れ、今さら人の形を増やすことが憚られるような現代ですが、相変わらず人は人に関心を持ち続けています。

 ただ、彫刻として表そうとしているものは、その地域によって微妙に異なっているように感じます。日本語には「風采」とか「風貌」という言葉があります。どうやら人の姿・形を風=周りの空気ごと捉える、そんな独特の感覚が日本人には備わっているようです。「雰囲気」や「殺気」なんて言い方も、そうかもしれません。西洋の彫刻がプロポーションにこだわり、匿名の肉体を石やブロンズの量感で表そうとしたのに対し、日本ではその人の「気配」を伝える顔や手の表情の方が、彫刻的な実在感(全体性)よりもずっと優先されてきたように思います。

 私の彫刻の主題も、まさにそういう日本人にとってリアルな「風貌」です。自分の中で大事な人を、共感をこめて、麻や漆といった昔からの素材でつくっています。今回、展示する7点は、私が影響を受けた作家―活躍した世界は別々ですが―の肖像で揃えてみました。是非ゆっくりご覧ください。