『無常といふ事』


「昭和」2011-11-06 - 村上力(むらかみ つとむ)ブログ美術館
 数年前、仕事帰りにたまたま覗いた古書店で、小林秀雄の『無常といふ事』の初版本を見つけました。『モオツァルト』と一冊になった文庫本で読んだことはありましたが、一も二もなく買いました。値段を聞いてびっくり。戦後すぐ、物資のない時代にざらついた和紙を使って活版印刷された貴重な3000部中の一冊が、なんと500円で手に入ったのです。当時の定価は15円だったにせよ、若い店員が「やっぱり間違いでした。」と言い出さないうちにさっさと持って帰りました。
 家に帰って開いてみると、さすがにページが取れそうな所をセロテープで補修した跡はありましたが、元の所有者が大切に扱っていたことがよくわかり、小林秀雄への尊敬が感じられました。1ページに13行、旧字体の活字がゆったり並ぶ組み方は優雅で読みやすく、作者のこだわりもあちこちに見えます。気持ちに余裕のあるとき、丁寧に頁をめくりながら読み返してみると小林秀雄の精神に直接ふれる気がします。