薬師寺東塔


2011年 24,5cmx19cm 楮紙、墨
 三重塔の大規模な解体工事が始まるということを聞いて、灼熱の奈良に行ってきました。8月10日、既に塔内部の作業は進んでいましたが、『凍れる音楽』はまるで何事もないようにその場に立っていました。
 昨年、縁あって宮大工棟梁の小川三夫さんとお話しさせていただく機会に恵まれました。講演会の後、駅まで歩きながらの20分間程でしたが、お会いした瞬間、この人は本物だとわかりました。理屈じゃありません。とても穏やかな物腰の中に、両手を使って仕事をしてきた人の凄味が見えるのです。
 薬師寺で小川さんや西岡常一棟梁の仕事の前に立つと背筋が伸びます。参拝客も殆どいない暑い境内で、一本一本に槍鉋の痕が残る回廊の柱を触りながら、しばし観られない東塔の姿を目に焼き付けてきました。