本に置く手

2023年 32cm×25cm 紙、鉛筆、水彩

 やっと本を閉じたところです。最近は一冊ずつにじっくり時間をかけて味わうことが多くなりました。今回読み終えたのは「野生の思考」です。「悲しき熱帯」他、レヴィ=ストロースの著書はこれまでに何冊か読みましたが、一番有名なこの本だけ(値段も高かったので)飛ばしていました。色々な部族のトーテムや命名についての個々の記述など、人類学・民族学素人にとっては、やや退屈で読み辛い部分もあるのですが、頑張って読了しました。

 誰もが読むべき本とは言いません。でも、「メルロー=ポンティの思い出に」という献辞を持つこの本を素通りする訳にはいきません。近現代の西洋の思想家中で、最も私の感覚を言語化してくれている様に思えるのがメルロ ポンティなのです。彫刻をつくる時、自分がモデル(他人)になりきり、作品が自身に重なる経験を、可逆性やキアスム(交叉配列)という概念で表すと、とてもしっくりきます。果たして造形制作しない人にこういう感覚が理解できるかどうかは疑問ですが。とにかくメルロ ポンティとレヴィ=ストロースの間には強い信頼関係があり、お互い影響を与えあっていたことは間違いありません。

 「野生の思考」は、文明とか未開とかいう思い込みを丁寧に排除してから、種を維持していくために備わった人類共通の知恵や仕組みを浮かび上がらせていきます。最終章には、サルトルを痛烈に批判する「歴史と弁証法」という有名な論文が所収されていて、これはこれで最も読み応えがありました。

 読後の詳しい感想や評価はもう少し頭が整理できてからに回すとして、世界には凄い人間がいたということだけはまた一つ確認できました。これだから読書はやめられません。私は決して若い頃から素晴らしく本好きという訳ではありませんでしたが、歳をとってあまり活動的でなくなった今、造形作品づくり以外もっぱら読書です。目が見えなくなる前に読めるものは読んでおこうと思っています。そういう意味では「本に奥手」かもしれません。くだらない締め方ですいません。