ピカソ

2022年 高・幅480cm、奥行150cm 麻布、樹脂、アクリル塗料、綿布、他

 明日でTARO賞展が終わったら、この作品だけは二度と展示できない可能性もあるので、ここで紹介しておきます。高さ5mの壁から吊ったピカソの顔は2m以上あります。床に展示してある等身像よりも大きく、これをつくっていた部屋から出せなくなってしまった程です。何しろこんなに巨大な顔面と手は、私にとって初めての経験でしたから、制作中は想定外の事ばかり、その度に機転と運で切り抜けるしかありませんでした。

 正面から見た大きさに加えて奥行があることで、より強い負荷が支点にかかることもわかってはいましたが、予想以上でした。顔と正対するために、L字型アングルで頑丈なスタンドを拵えたつもりだったのに、鉄の支柱が2本ぐにゃりと曲がってしまったのにはたまげました。構造を考え直し、部材を補強して事なきを得ましたが、制作中はこんな突貫工事と肉体労働の連続でした。まあ、結構それを楽しんでもいましたけど。

 5mの高さから吊るためには、かなり重量を抑える必要があります。構造に関わらない部分は、顔の内側に潜り込んで、できる限り削ぎ落とし、何とか一人で動かせる様にしました。ただ迂闊にも、扉の大きさのことは考えていませんでした。出す段になって、作品か部屋のどちらかを分解しなければならなくなり、仕方なく一間幅の窓のサッシを二枚とも外して、運び出した次第です。

 ピカソの上半身は近くで観てもらえばわかる様に、平面です。美術館の壁に、細長く切った紺色の綿布を貼ってみました。遠くからボーダーシャツに見える様に、少し弛ませて画鋲で留めました。こんなアイデアも、猿知恵の限りを尽くして格闘しているうちに、ふと湧いてきます。これだから、多少重労働ではあっても、制作はやめられません。

 さて、こうして楽しみながらも苦労した甲斐があり、今回のTARO賞展で、巨大なピカソ像は立派に客寄せパンダの役割を果たしてくれました。会期中に、この行く末を慮って、弱々しく手を挙げてくれたギャラリーもあるにはありましたが、いずれも期間限定で展示してみたいというだけで、嫁ぎ先とはなりそうもありません。「是非ヴェネツィア・ビエンナーレに!」なんて美味しい話はそこらに転がってないもんでしょうかねぇ?